大学病院における権力争いの物語。教授選や学術会議会員選において、どんな手を使ってでも当選しよう、そしてその周囲にいる人たちもそれぞれの思惑から、財前を当選させようとする。
昭和38年から昭和43年にかけて書かれた本らしいが、今読んでも決して色あせない内容であると思う。
私は社会人になってから10年くらいは、権力争いなど古典的な考え方は、もう無くなってしまっていると思っていた。
そんな事よりも、お客様のことを第一に考え、いかにして顧客満足度を上げるか、そして内部に留まっている悪しき環境をいかにして改善していくかということしか、考えていなかった。
さらに権力争いなどどこか都会的なイメージがあって、私が住んでいる田舎とはかけ離れている話だと思っていた。
しかし、2年前に初めて部署を異動して、今まで感じたことが無かった雰囲気に気付いた。
ここにも様々な利権をかけての権力争いがあると感じられた。
今まで信念を持って取り組んできたことが、否定されたときもあった。
公平性、正義とは何なのかわからなくなってきた時もあったが、その雰囲気に流されている自分がいる。
自分よりも下(だと勝手に錯覚している)の者には冷たく接し、上の者には必要以上に緊張しながら接している。
白い巨塔に出てくる里見助教授はいつまでも純粋な気持ちで仕事に取り組んでいる姿には、自分もこうあるべきなのであろうと思うが、現実はなかなか厳しい。
白い巨塔は2部構成になっており、当初は1部で終わったのだが、あまりにもその終わり方に反響があったために、2年後に2部が刊行されたらしい。
1部の終わり方は、文庫本で言うと3巻になるのだが、誤診で訴えられた財前が様々な金と権力をちらつかせて原告敗訴をもぎとった格好で終わっている。
確かにフィクションとは言え、後味の悪い終わり方だったと思う。
そして、2年後に出版された2部ではその控訴審が書かれており、1部とは違った結末になっている。
まぁ、フィクションなので、最後は「終わり」にする必要があったのだろうが、現実には終わりがまだまだ先の場合もある。(フィクションでも終わりにしない場合も多々あると思うが...)
たぶん、まだまだこの世には利権争いがあるのだろう。私はそんな面倒くさい世界には足を踏み入れたくない。しかし、社会に出れば大なり小なり利権に絡む様々なことがあるのだろう。
純粋に適任者がそのポジションに付けば良いと思う一方、現実的にはそんな世界は無いのかもしれない。
真っ白な布は、簡単に真っ黒に染まりやすい。私はどちらかというと、ビジネス書を読み過ぎて、性善説的な考え方を持っていたと思う。だから、真っ黒にも染まりやすかったのかもしれない。
もともと競争が好きだったし、どんなことにも負けるのは絶対に嫌だった。戦いを挑んだのなら、勝つまで絶対に諦めたくなかった。
そんな性格の人は簡単に染まってしまうのかもしれない。そして、いつか超えてはならない一線を超えてしまうのだろう。
一度その色に染まってしまうと、引き返すのは非常に困難になる。もはやアリ地獄のようにどんどん吸いこまれていくしかない。
白い巨塔の内容は現在の社会でも脈々と引き続き行われていると思う。
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